■中高年層ばかりに「目」
──大学生の価値観や生活に、社会が追いついていないということですね。
大学生だけではありません。そもそもメンタルヘルスに関しては中高年層の問題に目が向けられてきましたが、若年層に関しては関心が払われてこなかった、という歴史的な経緯があります。
(コロナ禍で)キャンパスに入れないのに学費を下げないことに対して多くの学生が声を上げましたが、実際に学費を減額した大学はほとんどありませんでした。
国立大学は国の助成を受けていますし、私学だって私学助成金があります。大学が授業料を減額した分、国が大学に対して助成することもできたはずです。
たしかに、住民税非課税世帯の学生については、特別定額給付金とは別に最大20万円の給付を行いました。しかし、アメリカでは学生ローンの返済の免除をしています。年収12万5千ドル未満の人は、1万ドルの返済が免除されました。日本もさらに取り組める余地があると思います。
──日本では学生への支援が手薄なのはなぜでしょうか。
学費減額の署名運動をした私たち学生が学生支援に関する提言書を、当時自民党の幹事長代行だった稲田朋美さんに持っていき、稲田さんが当時の安倍晋三首相のもとにその提言書を渡してくれました。その直後に学生に対する給付が政府から発表されています。しかし、野党のとある議員からは最初、「物事には順序があるからね」と言われ、提言の内容を拒否されてしまいました。学生を見限っていると感じました。
■政治責任だけではない
──コロナ禍がなかったら、今より若者政策は進まなかったかもしれませんね。
2019年までの過去10年、全体の自殺者数は減っていましたが、子どもの自殺は増えていました。問題が深刻化していたにもかかわらず、積極的に対策を講じてきませんでした。それは、生の声が政治に届いていなかったという問題も背景にあります。同時に、社会の関心も低かったということを指摘する必要があります。政治の責任だけではないはです。
例えば、コロナ対策の専門家会議では、大学教授が多くメンバーに就きました。大学教授は基本的に学生と最も近くにいて指導する立場にあります。しかし、そういった人たちから、若者や学生の生の声を反映した、コロナ対策が提言されることは、ほとんどありませんでした。
(構成/AERA編集部・井上有紀子)