そのむちゃくちゃな所業をやり遂げるために、法外な金のバラマキが必要だったわけだ。まるで、田中角栄時代のような金のバラマキ方である。
案里氏当選のために、自民党本部は河井氏側に1億5千万円の資金を提供している。だが、溝手氏の応援団であった広島の有力者たちは、河井氏側からの金を受け取るのを嫌がったようだ。
溝手氏を裏切るのだから、嫌がるのは当然である。
すると、また自民党の幹部たちが強い圧力をかけたようだ。
金を受け取らないと、お前らの将来はないぞ、というような脅しをしたのであろうか。
そして、結果的には多数の有力者たちが金を受け取り、案里氏が勝って、溝手氏は落選した。
いわば、自民党の幹部たちの思いどおりになったわけだ。
だが、こうした経緯をたどると、主役は自民党幹部たちであり、河井夫妻はいわば協力者なのである。
自民党幹部たちの要望で、克行氏は案里氏を出馬させなければならなくなり、自民党幹部たちの要望で、法外な金のバラマキをやらざるを得なかったのである。
それでいて、河井夫妻だけが有罪判決を受けて、自民党幹部たちをノホホンとさせている検察は、何とも理解しがたい。こんなことがあってよいのか。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2021年11月5日号