ジャーナリストの田原総一朗氏は、2019年の参院選広島選挙区をめぐる買収事件の経緯をたどると、主役は自民党幹部たちだと指摘する。
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2019年7月の参院選広島選挙区をめぐる買収事件で、東京地裁に懲役3年、追徴金130万円の実刑判決を言い渡されて控訴していた、元法相で元衆院議員の河井克行被告が、10月21日に控訴を取り下げ判決が確定した、とのことである。
判決によると、河井被告は19年3~8月、妻の案里元参院議員を当選させるため、地元議員たち計100人を計約2870万円で買収した。なお、案里氏も同じく公職選挙法違反で有罪が確定している。
そもそもこの事件の始まりは、自民党の幹部たちが当時首相であった安倍晋三氏に、「広島の溝手顕正参院議員は、あなたの悪口をたびたび口にしている。このような人物が参院議員でいるのは許しがたい。彼を失脚させるべきだ」と強く訴えたことであった。
安倍氏が「そんなことは放っておけ」と言えば済むことであったが、安倍氏は幹部たちの訴えに耳を貸さないのは悪いと思ったのか、2人を当選させよう、と反応したのである。
そこで幹部たちは、安倍氏の側近でもある河井氏に申し入れて、妻の案里氏を立候補させることにしたのだ。
もっとも、このことに自民党の広島県連は強く反対した。参院広島選挙区は溝手氏と野党の一人で安定しているので、わざわざバランスを壊すことはないと反対したのである。
広島県連の反対はもっともだと思う。ところが自民党の幹部たちは、広島県連に圧力をかけて、反対の声を封じ込めた。
政治とは力の世界なので、広島県連は下部組織であり、本部の幹部の圧力には弱いのである。
広島の首長、議員など有力者たちは、当然ながらいずれも溝手氏の応援団である。その多数を、何としても反溝手である案里氏の応援団に切り替えさせなければならない。むちゃくちゃな所業である。