逮捕状は1988年に出されたものだった。容疑は一美さん銃撃事件で、罪名は殺人と共謀。ロス市警は20年間も執行の機会を待ち続けていたわけだ。
三浦元社長の弁護団は、同じ事件で二度裁くことはできない「一事不再理」の原則に反する逮捕だとして、ロス郡地裁に逮捕状の取り消しを請求した。逮捕から7カ月後、地裁は殺人罪については一事不再理を認めたものの、共謀罪については一事不再理ではなく、逮捕状は有効だとする決定を下した。
三浦元社長は移送され、10月10日朝、ロス市警本部に到着した。そのまま留置場に入ったが、その夜、ワイシャツで首を吊った姿で見つかり、死亡が確認された。検視の結果、自殺とされた。
61歳だった。……………………。
彼が死んで、もう13年になる。ふと思い立って三浦和義著の本が今も売られているかどうか、Amazonで調べてみた。中古本を含めて6冊あった。その一つは『弁護士いらず――本人訴訟必勝マニュアル』(太田出版)である。メディアを相手に法廷で争い続けた自分の体験をまとめた本だ。その判決や和解の記録は、被告となった各社の法務部門に今も保管され、取材や報道の在り方を見直すきっかけになっただろう。
プライバシーや肖像権など、報道される側の権利が侵されることについて、司法の判断はますます厳しくなっている。メディアはこれからも自戒を求められる。
「ロス疑惑」が残したものは、まだ終わっていない。
(清水建宇 朝日新聞元警視庁キャップ)