北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 ところが、であった。会場の記者たちの関心はそこにはなかった。それどころか、記者会見は次第に新井さんを責めるような空気になっていった。声色だけでも、質問する記者が威圧的だったり、ニヤニヤしている雰囲気が伝わってきた。実際その場にいた記者によれば、記者やカメラマンは20人ほどいたが、ほとんどが男性で(女性記者は2人だったという)、時に記者どうしが目配せするように質問をすることもあったという。

 たとえば新井さんは以前、強制わいせつ罪と強制性交等罪を混同し使っていたことがあった。それを問われた新井さんは「私が受けた被害は、現在の刑法では強制わいせつ罪ですが、被害者からすればその二つを区別はできない」と説明した。

 それに対し男性記者は「意味が分からない」と食い下がり、説明を受けても「分からない」を繰り返していた。まるで最初から一貫して同じ言葉を使わないことが大問題であるかのようだった。

 現在の強制性交等罪は身体への男性器の挿入が問題になる。それに対し、指やアダルトグッズなどを使った行為も強制性交等罪として認められるべきであるという議論が重ねられてきた。被害者にとってみれば、男性器の挿入が問題ではなく、同意があったかどうかが問題だからだ。そのような基本的知識のない記者による、隙あらば矛盾を責めるという空気が記者会見場にできあがっているのが伝わってきた。

 特に性被害が音声に残っていないことについては、嘲笑的で、時に攻撃的に聞こえた。

 もともとやましい気持ちで録音していたことから、町長が近づいてきた時に「ばれた」と思い、新井さんは録音機の電源を切ったという。

「もし音声がとれていたとしても、私は消したと思います。振り返るのもつらいこと、聞くのは耐えられないからです」

 と新井さんは話したが、「核心的な内容なのに、なぜないのか?」「町長は和やかに会話しているのに、突然豹変するようなことがあるのか?」など、音声がないことに故意をにおわせる質問が続いた。そもそも性暴力は、からかいや、和やかな空気のなか、被害者が被害と気がつけないほどに自然に「始まる」ことが多い暴力であることを知らないからできる質問だろう。

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「うそつき」と言われ続けた