そして脚本を書きあげて、色んな映画会社にプレゼンをしに行ったのだとか。プレゼンすると「いいですね~」とは言うものの数カ月たってお断りの連絡が来る。これを何回か繰り返したと。
そしたら、映画会社には断られたんだけど、最後に拾ってくれたのがNetflix。いや、すごい!正直、今、作り手からしたらここで一番作りたいと思う人も多いはず。
そのNetflixの審美眼もすごいし、劇団ひとりの運の強さ。結局、動かないと運はつかめないんですよ。
しかも「イカゲーム」と「地獄が呼んでいる」が大ヒットして、日本人の多くのクリエーターにもNetflixなら世界に行けると思わせてくれたこのタイミングで、配信。
大泉洋さんが師匠の深見千三郎役で、柳楽優弥さんが「たけし」役。まず、この柳楽さんの演じ方がとんでもなくすごい。ビートたけしさんの癖から喋り方から、憑依したような芝居。ここまでこだわらせる劇団ひとりもまあ、すごい。
ただ、僕が一番痺れたのは、大泉洋さんです。柳楽さんの芝居が一番褒められがちかもしれませんが、僕が泣いたのは結局、大泉さんが芝居してる時なんです。
大泉さんのお芝居は大好きで、たくさん見させていただきましたが、僕の中ではこの作品は大泉さんの現時点でのナンバー1だと思ってます。
他の出演者のお芝居も全員いい。
ですが……やっぱり劇団ひとり監督の演出。
演出面で、泣きの部分で「ブレーキを踏む」人も結構多いですよね。一歩前で止める。
だけど、ひとり監督はそれをしない。ひとり曰く「そりゃ、根こそぎいきますよ」と。そこに対しての照れがない。挿入歌の「浅草キッド」も2回流れるんです。劇中に。
その照れがないところが僕のドンズバでもあるのです。
この「浅草キッド」が、この年末から年明けにかけて、もっともっとたくさんの人を泣かせてくれるだろうし、大大大ヒットしてほしいと本当に思う。
大泉洋さんがイカゲームを追い越したら、それもめちゃくちゃおもしろいしね。
この作品はNetflixの中での日本作品の新たなフラッグシップになってほしいと強く思う。
鯨!!
■鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中。毎週金曜更新のバブル期入社の50代の部長の悲哀を描く16コマ漫画「ティラノ部長」と毎週水曜更新のラブホラー漫画「お化けと風鈴」の原作を担当し、自身のインスタグラムで公開中。コミック「ティラノ部長」(マガジンマウス)は発売中。「お化けと風鈴」はLINE漫画でも連載スタート。YOASOBI「ハルカ」の原作「月王子」を書籍化したイラスト小説「ハルカと月の王子様」が好評発売中。長編小説『僕の種がない』(幻冬舎)が発売中。作演出を手掛ける舞台「怖い絵」が2022年3月に東京・大阪にて上演。