この「拘束されているが、賃金に含まれていない時間」とは、前述の移動、待機、キャンセルのほかにも、▽業務内容を記録に書き込む時間▽訪問先で起きたことについて、電話で事業所に報告・相談する時間▽移動中にトイレに行く時間▽事業所によっては研修に参加する時間などが含まれる。これらは「付帯労働時間」と呼ばれる。

 原告で、70年代から労働運動に携わってきた伊藤さんは、こう説明する。「訪問介護は変形労働時間制の労働契約に当たります。その場合は事前に勤務予定を明示し、その後のキャンセルは必ず休業手当の支払いが必要になるのが法律上の解釈ですが、それを守ったら、事業所によっては倒産するでしょう」

 このため、原告は、厚労省が事業所に付帯労働時間の賃金を支払うよう通達を出しても、事業所が支払えないのは「介護保険制度に構造的な原因があり、労働基準法違反な働き方が継続的に放置されている」として、国に責任を問うとともに早急な改善を求めている。

 昨年、岸田政権では「新しい資本主義」政策のもと、看護師・介護職員・保育士の公定価格の見直しによる給料引き上げを明言した。このため、今年2月から9月まで、介護スタッフの賃金が引き上げになるよう対策が取られた。だが、10月からは、利用者のサービス料値上げと保険料値上げで続けられている。このため、現場は利用者への説明に追われている。

 伊藤さんは「現在、介護報酬に人件費を含めているため、労働者の賃金を上げると利用者負担も増えます。それでは、経済的な理由で介護を受けられない人が出てきます。介護保険制度ができる前は人件費補助方式、つまり、事業所に人件費を補助していたため、この形に戻してほしい」と法廷で訴えた。

 さらに、原告は15年以降、「介護の効率化」のもとに訪問介護でも稼働時間が細切れ(20分、30分、45分など)になり、前述の「移動、待機、キャンセル」が増えただけでなく、そのことで介護の質が低下し、利用者の尊厳とともに、ヘルパーのやりがいや誇りが大きく失われたとも主張する。

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