「家の中には、物がびっちり残っていてすごいんですよ。不動産屋さんは女の人はすさまじく汚れた家の中に入ってこられないだろうと思っていたみたいですが、私はグイグイ入っていって、押し入れの中まで見せてもらいました」
その甲斐あって不動産投資家に原稿を読んでもらうと、「投資家と不動産屋のドライで慣れ切った感じがよく出ている」とお墨付きをもらった。
一方、ヴィトンの財布は転売や盗難で、マルチ商法にはまった男、奨学金返済に苦しむ女などの手に渡っていく。
「有吉佐和子さんの『青い壺』のようにモノの持ち主がどんどん変わって、その人の人生を映し出す小説を書いてみたいとずっと思っていました」
女性の貧困も原田さんが書きたかったテーマだ。
「貧困が奨学金の返済から発している女性も多いんです。自分だったらどうアドバイスしようか、小説という手段でアドバイスできないかと考えていました」
登場人物はお金のモヤモヤを解決して人生の迷いからも抜け出していく。お金にまつわる小説を書き始めた原田さんの人生にも変化が訪れた。50歳を過ぎ、小説家として店じまいも考えていたとき『三千円の使いかた』が大ヒット。原稿依頼が急増して5年先まで仕事の予定が詰まっているそうだ。(ライター・仲宇佐ゆり)
※AERA 2022年9月19日号