映画「オルガの翼」は、欧州選手権を目指してトレーニングに励む15歳の体操選手、オルガの青春物語。だが、ウクライナ侵攻の遠因となる「ユーロマイダン革命」(2014年)が背景となっており、単なる青春映画にとどまらない。主役のアナスタシア・ブジャシキナは出演当時、ウクライナのナショナル・リザーブチーム(補欠)のメンバー。今は故郷を離れて暮らす彼女に、演技にかける思いや戦禍で過ごした日々を聞いた。
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──どんな経緯で出演が決まったのですか。
「エリ・グラップ監督からオファーを受けたのは2017年。映画は新しい仕事ですし、その時は体操が一番だったのでためらう気持ちがありましたが、色々考えた末に挑戦しようと。オーディションは3回あり、最初は私だけ。2回目以降は母親役の女優さんと一緒に、相性が合うかどうかを見られました。役が決まってまずしたことはフランス語教室に通ったことです。(映画でスイスへ移住することになるため)勉強するしかありませんでした」
──映画の出演は初めてだそうですが、役作りはどのようにしたのですか。
「脚本は面白かったです。でも、全てをそのとおりに演じたわけではありません。自分から提案もし、意見も言いました。演技を監督から教えられながら、このシーンはこうして改善したらいいとか、一緒に考えました。オルガはウクライナからスイスに行きます。私も生まれた町を離れて違う町に行った経験があるので、その時の思いや感じたことも思い出しながら役作りに挑みました」
──作品にはウクライナやスイスのナショナルチームの選手が出演し、体操の競技や練習シーンはドキュメンタリーさながらの映像で見る者に迫る。例えば、オルガが繰り返し練習する段違い平行棒の技「イエーガー(前方開脚宙返り懸垂)」もその一つだ。
「映画ではなかなか成功させることができないという設定でしたが、私自身はできます。わざとできないようにするのは不思議な感じがしました。本来、選手にとって落下するのは失敗であり、負けることを意味しますので、演技とはいえ失敗することにはためらいがありました。失敗することは簡単ですが、わざと落ちたりできないふりをすることで、改めて技をこなすことが難しくなるような気がしたんです。そのため、鉄棒から落ちたり失敗したりという演技の後は技術が落ちないように熱心に練習しました」