「カヨが発情したとき『車に乗っけて雄のところに連れていけ』と複雑な要求をするので、『これ以上の多頭飼いは無理だから連れていけない。もう交配はできないの』と言ったら、明らかにショボンとしちゃって」
まるで動物の言葉がわかるドリトル先生だが、動物とのコミュニケーションは言語ではないところが面白いという。
「ヤギの世界と交信しているときは母語じゃないものを操っている感覚があるんです。通じているのか、不確かで、はかなげなところも楽しいのかもしれないですね」
体の向き、耳の動かし方など仕草を鋭く観察し、人間と同じようにヤギの気持ちを推し量る。
暑さが厳しい時期は夕方に家を出る。両腕に3抱えほどの草を集め、軽トラでヤギ舎に運び、掃除をする。家では飼って4年になるイノシシの世話もある。
内澤さんはかつて千葉県で豚を飼育して食べ、『飼い喰い 三匹の豚とわたし』を書いた。その後、家畜ロスになり、小豆島に移住して豚か馬を飼おうとしたが、住民の反対やエサの問題からヤギを飼うことにした。
「カヨを見たとき、何て優美な形の生き物なんだろうと思いました。ヤギの絵を描いているときは、その形をたどっているので本当に幸せなんです」
著者による挿絵もたっぷり収録。ヤギとの暮らしは小説以上に波瀾万丈だ。(仲宇佐ゆり)
※週刊朝日 2022年9月9日号