亀山さんは「教養とは他者の喜びを盗むことだ」とも。たとえば薦められた映画や音楽にふれるのは、一人だけで得られなかった新しい喜びを知ることでもある。

「言い換えれば、本を読むことで『どうぞ僕の喜びを盗んでください』と思っているんです。隣人である著者から、なんでもよいので読者が役に立つものを、ご自分の人生に持っていってもらいたい」

 他者の喜びを盗むとは、自分だけを信用しないということでもあるのだ。

「生きていくうえで何が自分の出発点かというと、それは知的な喜びです。肉体が衰えたとしても、精神的な喜びは生きている限り経験できるもの。それがないといくら長生きしても空虚だし、最後の30年をどう生きていくかはとても重要だと思うようになりました。若い時代、無意識のうちに積み上げてきたものが70代以降の人生を豊かにしてくれているものの正体だと気づいたんです」

 若い世代が本書を読めば、試行錯誤する若き亀山さんの姿に励まされるだろう。

「年齢にかかわらず、語学を学ぶことはお薦めです。僕も、そろそろ韓国語を始めようかな、と思っています。語学の学びは、自分のなかに新しい世界を作ること。学ぶことそのものに意味があるからです」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2022年8月29日号

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