高梨沙羅は2回目のジャンプを終え涙ぐんだ。もし1回目(103メートル、124.5点)が失格でなければ、日本は960.8点だった
高梨沙羅は2回目のジャンプを終え涙ぐんだ。もし1回目(103メートル、124.5点)が失格でなければ、日本は960.8点だった

 スキー・ジャンプ混合団体で、スーツの規定違反のため高梨沙羅ら5人が失格した。異例の事態の背景には、ミシンを遠征先まで持ち込む激烈な「スーツ開発競争」がある。AERA2022年2月21日号の記事を紹介する。

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 2月7日の北京五輪スキー・ジャンプ混合団体は、高梨沙羅(25)ら強豪国の女性選手ばかり計5人がスーツの規定違反で失格となった。スーツの「開発競争」は数ミリ単位で行われ、違反すれすれのものを着ないと勝負にならない。4年に1度の大舞台でルールが厳格に適用され、波紋を呼んでいる。

 スーツの検査は飛距離への影響を少なくし、公平性を保つのが狙いだ。選手はまず、ジャンプを飛ぶ直前にスーツを着た状態で、事前登録した股下の長さなどを測られる。飛び終えた後は無作為に選ばれた選手らが対象だ。高梨は1回目のジャンプ後、太もも回りが規定より2センチ大きいとして失格となった。

 高梨のスーツは4位に入賞した2日前の女子ノーマルヒルと同じもの。ふだんの試合は男女別に行われるが、今回は五輪で初めて実施された混合団体。スーツをチェックする担当者が男女一緒にいて、ルールを厳しく運用した可能性がある。

■海外遠征にもミシン

 スーツは生地の厚さや裁断の仕方などがルールで細かく決められている。選手は体に合ったサイズを着なければならず、体からのゆとりは男子が最大3センチ、女子は最大4センチまで認められている。その工夫具合が成績に直結してきた。飛んだときに股下や脇下を伸ばして、風を受ける表面積を広くすれば揚力をより得られるからだ。

 現役選手の内藤智文(28)は、こう言い切る。

「ただ大きくすればいいわけではない。工夫しているかどうかで、同じ条件で飛んでも男子ノーマルヒルなら2~3メートルは差が出る。『工夫をこらしていないスーツ』では勝てない」

 実際、全日本スキー連盟は2018年平昌五輪の前から、元ジャンプ選手のノルウェー人を裁縫の担当スタッフとして雇い入れ、スーツ作りを担当するミズノと共同開発してきた。担当者は海外遠征に同行してミシンを自ら駆使し、ときには試合後の真夜中にサイズを調整。強豪国のスーツ作りも探り、情報戦に負けないように対抗してきた。日本の横川朝治コーチはかつて「日本の技術は世界のトップレベル」と誇っていた。

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