TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。ビートたけしさんについて。
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ひと頃の芸人の師弟関係は、これもまたひと頃の日本の礼節の基本だったと、この映画を観て思った。照れと優しさあふれる「バカヤロー!」が浅草にこだまする。
ビートたけし自伝タイトルそのままの『浅草キッド』(Netflix配信)は、昭和40年代の浅草が舞台。大泉洋演じる深見千三郎は東八郎や萩本欽一を育て上げた伝説の芸人である。
大学を中退し、浅草に流れ着いた主人公タケシはエレベーターボーイとして劇場に住み込んだ。深見のコントに感動し、「弟子にしてください。師匠じゃないとダメなんです」と頭を下げる。「いいか、笑われんじゃねえぞ、笑わすんだよ!」。これが師匠の第一声だった。
浅草寺の五重塔が見える屋上でタケシはタップダンスの練習に明け暮れ、浅草の居酒屋で仲間と気勢を上げる。店の名前は「捕鯨船」。「鯨(ゲイ)を喰って、芸を磨け」と、暖簾に書かれていた。
TV全盛時代、フランス座は閑古鳥。悩みに悩んでタケシは師匠に別れを告げる。「フランス座、辞めます。ここにいたんじゃ、TVにも出られねえ」「ずいぶん笑わしてくれるじゃねえか。お前いつからそんなおもしれえこと言えるようになったんだ、このバカ野郎!」
「師匠に鍛えて貰ったんで……」と返しながら弟子は別れの涙に正座する。
こうなったら今までの漫才をぶっ壊すとタケシはツービートを結成。タブーだった貧困や差別に挑んだNYのスタンダップコメディアン、レニー・ブルースが手本だった。
TOKYO FM「街でいちばんの男~ビートニクラジオ」はビートたけしさんをパーソナリティーに、97年10月から3年間放送された。
番組名にある「街でいちばんの男」はアメリカの酔いどれ詩人チャールズ・ブコウスキー詩集『町でいちばんの美女』、「ビートニクラジオ」はビートゼネレーションから取った。水道橋博士と玉袋筋太郎を相方に、立川談志、前田日明、井上陽水、忌野清志郎と時代の顔が続々ゲストにやってきた。