番組収録の合間、たけしさんはスタジオでタップダンスを披露してくれた。
映画監督としてヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞するなど、本来なら手の届かない存在なのに、なんて謙虚な人なのだろうと感じていたが、原点は映画にあるように師匠の下での修業時代にあったのだ。
ラジオ収録後、たけしさんは僕らを飲みに誘ってくれた。「ラジオって面白いなぁ」とスタッフ全員に小遣いをくれた。なんだか弟子になれた気がして、ポチ袋に入れたまま、開けずに今でも額に入れて飾ってある。
見えっ張りで優しくて。師匠を演じた大泉洋はTV時代においてきぼりをくう江戸前の芸人を見事に演じ、喜劇役者として一時代を築くだろうと予感した。タケシ役の柳楽優弥は、仕草、口調、目つきといい、たけしさんそのもの。美人で、何より気風(きっぷ)が命の師匠の妻を、鈴木保奈美が粋に演じていた。
「いい服着ろ。いくらバカやっても、舞台降りたら格好いいっていわれるのが芸人なんだよ」
脚本・監督は劇団ひとり。芸人が描く、芸人の半生。芸を思う愛の大きさが半端なかった。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年3月4日号