※写真はイメージです
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 弁護団は最高裁への上告で、この点を含めて10人の専門家から意見書を得て提出している。その結果、最高裁は科捜研が実施したDNA量測定方法の場合、「どの程度の誤差があり得るものか」「検査結果の信頼性に、どの程度影響するのか」と疑問を呈した。

 DNA測定に詳しい専門家に取材したところ、「科捜研が用いた機械の増幅領域で測定した場合、誤差が生じる可能性がある」と指摘する。つまり、DNA量を正確に測定するには向かない。

 しかし、再び測定法について議論しても、数値を検証するためのデータも、再鑑定するためのDNA抽出液もない。

 鑑定に使われたガーゼの半分は残っているため再鑑定は可能という話も聞くが、乳房をぬぐったときの付着物がガーゼ全体に均一に付いているとは考えにくい。さらに、ガーゼは常温で保存されていて、その場合DNAが分解されてしまうため、再鑑定は不可と言える。DNA抽出液の残りを冷凍保存していれば、再鑑定は可能だった。

 このほかにも「唾液の陽性反応結果を裏付ける写真がなかった」、DNA量などが記載されていた資料を医師側弁護人が検察庁で確認したところ、「記録は鉛筆書きで、消しゴムで消して上書きされるなどした部分が9カ所見つかった」ことなどから、弁護団は裁判所に「科学的信頼性に欠ける証拠は排除されるべきだ」と主張した。

 冤罪(えんざい)事件に詳しい日本大学医学部(法医学)の押田茂實(しげみ)名誉教授は「DNA型鑑定(本件ではDNA抽出液を指す)は歴史的に先人の苦い経験をもとに、警察庁から何度もその取り扱いに対する通達(*3)が出ている。だが、現実には違反した捜査実務の実例が散見される。本件は科学捜査に必要な条件を問う裁判です」と話す。国民が納得できる裁判を求める。

*1 術後の乳房の形状を保つことは専門用語で「オンコプラスティックサージェリー」と呼ばれる。乳がん手術後から広まった手法。
*2 本来、DNA量を測定するときは、測定過程で検出される「物差し」の役割となるデータを同時に用いなければ正確な数値は算出できない。科捜研はこのプロセスを経ていない。
*3 警察庁の通達では、鑑定試料の残りは再鑑定に配慮して保存すること、その際には冷凍庫や超低温槽を活用することなどと記載されている。

週刊朝日  2022年3月11日号

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