3月4日、岸田文雄首相は、防衛装備品の提供を禁じる「紛争当事国」にウクライナが当たらないことを記者会見で説明。8日、防衛装備移転三原則の改定を行い「国際法違反の侵略を受けているウクライナに対して」装備品を提供できる根拠を整えた。同国向けの装備品を積んだ輸送機が飛び立ったのは、その日の深夜だった。
8日に行われた国家安全保障会議四大臣会合では、防弾チョッキについて、以下のように審議された。
<防弾チョッキを目的外使用することを禁止し、第三国移転する場合には、我が国の事前同意を義務付けることにより、防弾チョッキのウクライナへの移転後の適正な管理を確保した上で実施することとする>
しかし、菊池さんは第三国への流出は避けられないのではないか、と話す。
「実はいま、ロシア軍の戦闘糧食がeBayとか、インターネット上で1万円くらいの結構高値で取引されているんです。出所は間違いなく、ロシアで、ウクライナでも同じことが起こりかねない。提供した防弾チョッキやヘルメットは、1千や2千の数ではないはずなので、いずれは、こずかい稼ぎに流出するでしょう」
■防弾チョッキは「トモダチの証」
ちなみに、装備品の空輸は3月8日だけでなく、10日と16日にも行われ、第3回目の輸送は自衛隊ではなく、米軍によって行われた。
「やはり、ここでも政治的な思惑を感じますね。ウクライナ侵攻という有事に対して、自衛隊と米軍が共同歩調をとっている」
装備品は横田基地(東京都)に運ばれ、米軍の輸送機に積み込まれた。
「はたから見れば、単に米軍の輸送機が自衛隊の装備品を運んだだけじゃないか、と思うかもしれませんが、有事に際して、どれだけ自衛隊と米軍がスムーズに連携できるか、それを確かめる意味もあったと見ています」
実はちょうど1年前の3月、「日米、史上最大の空挺訓練」とうたわれた、「エアボーン21」が実施された。
「このとき、横田基地から約130個のコンテナを空輸したんですが、日米が相互運用能力を高める目的があった。今回、わざわざ、自衛隊の装備品を米軍機で輸送したというのは、その集大成として共同空輸作戦を行った、という側面もあるでしょう」
そして今年3月16日、その輸送機に装備品を積み込む際、ラーム・エマニュエル駐日米国大使は横田基地で、こう演説した。
「私の後ろに見えるのは、トモダチの証です。間もなく自衛隊の装備品を積んだ米国の航空機がヨーロッパに向かい、ウクライナの勇敢な市民が自由のためにロシアと戦うのを助けるのです」
これまで、日本政府は遠い国の紛争には積極的に関与してこなかった。しかし、今回は当事者側に踏み込み、ウクライナを支援する国々と歩調を合わせようとする強い覚悟が感じられる。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)