緊迫化するウクライナ情勢。ロシアによる侵攻で停戦のための課題は何か。日本はどう外交すべきか。アエラ3月28日号に続き、元外務省欧亜局長の東郷和彦さんと、外交ジャーナリストの手嶋龍一さんが語り合った。AERA 2022年4月4日号の記事から(前後編の後編)。
>>【後編:ウクライナ停戦の第一関門「中立化」を実現する外交手腕とは 東郷和彦×手嶋龍一】より続く
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手嶋:手をこまねいていれば、中国が乗り出してくるでしょう。停戦が叶わず、戦局が膠着すれば、習近平がプーチンを説得して停戦を成功させる可能性がある。そうなればノーベル平和賞に輝き、世界のリーダーとして権威は一挙に高まってしまう。そして、一国二制度の名のもとに台湾を併合してしまう恐れがある。
中国主導の仲介は、日本の安全保障や台湾有事にも影を落とすことになります。国益のためにも「習近平の仲介」は断固阻止すべきと私は考えています。
東郷:習近平から見ると、アメリカはウクライナの問題を自ら大きくしておきながら、ウクライナの死者は増え続けている。さらに、主敵のはずの中国に頼ってきている。「アメリカがなんぼのものだ」と考え、この戦争が終わったあとの世界のリーダーになることに狙いを定めているはずです。この動きは避けられないでしょう。
■日本の信用薄くなる
しかし、今後もアメリカは日本の安全保障上、最重要なパートナーであり続けます。そのアメリカが追い込まれているいま動かずして、いつ日本の外交の力を発揮するのか。中国の助けを借りなくても、日本が持つ内在的なロシア理解からすれば、戦争を終わらせることができるはず。停戦を主導し、新たな日米関係を築いていくべきです。今のように「足並みをそろえます」というだけでは、日本の信用、居場所は薄くなります。
手嶋:日ロの懸案である北方領土問題は、安倍時代に頓挫しましたが、領土交渉自体は外から見えるよりは間合いがつまり始めていました。
東郷:2019年以降のロシアの対応はひどいものでした。それでも、56年の日ソ共同宣言の下で交渉をやるというところからロシア側が下がったことはありません。ただ、今回で領土交渉はいったん終わりました。日本はプーチン個人を制裁にかけた。さらに、北方領土は「日本固有の領土」で、ロシアの「不法占拠」だと岸田(文雄)総理・林(芳正)外相が明言しました。安倍時代は避けてきた表現を復活させた。更にロシアのウクライナ侵攻の非人道性を糾弾するために国際刑事裁判所に付託しています。