オミクロン株が出現したときに,「ウイルスは弱毒化するのが常だから、これでひと安心」という説を唱える人がいたが、感染症が強毒化するか弱毒するかは様々な条件が複雑に関与し、希望するような予定調和になるとは限らないのである。

 先に述べたとおり、この変異体はケンタウロスと呼ばれているが、その出元ははっきりしない。

 PubMed(医学文献のデータベース)で引けるような学術出版物には見られないが、6月半ばより欧米の新聞やニュースで報道されている。その根拠は「今までとは全く異なった怪物」というニュアンスらしい。

 ただ、δ(デルタ)株からο(オミクロン)株ほどの大きな変異(おそらくマウスなどの齧歯類に適応してまたヒトに戻ってきた)ではなく、従来のワクチンや抗ウイルス薬が全く効かなくなるということもなさそうである。いずれにせよ、感染力が強いとすれば置き換わりによる新たなピークの出現に備え、暑いけれどもマスクの適切な着用と換気、そしてワクチン接種をすすめるしかない。

半人半馬の怪人

 さて、ケンタウロス(ラテン語ではケンタウルス)はギリシア神話や星好きにはおなじみだが、馬の首のところが男性の上半身に置き換わっている。ケンタウルス族は酒飲みで乱暴者が多かったとされるが、ケンタウルス座のモデルになった賢者ポロスや、いて座のモデルになったケイローン(アスクレピオスの医学の師匠)は温厚で、神々や人間との関係もよかった。

 もちろんケンタウロスは実在しないが、もとはギリシアの北方の国境を侵した騎射の名手スキタイ人のシンボルだったらしい。日本には明治時代にケンタウルの名で伝わり、宮沢賢治は名作『銀河鉄道の夜』で、

「ケンタウル露をふらせ。」いきなりいままで睡っていたジョバンニのとなりの男の子が向うの窓を見ながら叫んでいました。」(中略)「ああ、さうだ、今夜ケンタウル祭だねえ。」「ああ、ここはケンタウルの村だよ。」カムパネルラがすぐ云いました。

 としている。ケンタウル祭とは賢治の創作だが、ケンタウルの露とは草木に宿る夏の夜露ともペルセウス流星群の流れ星とも言われている。

 早く、流行が終息して星を見に行きたいものである。

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