非常に栄誉な名門チームへの移籍ニュースに加えて、独特のキャラクターがたっている名コメントだったので、すぐに様々なメディアで取り上げられました。いい大人が、心の中の小さな自分に話しかけて、重大決定をしたなんて。面白おかしく「迷言」として話題になっていましたが、実はここに、ネガティブな「心の声」と向き合う効果的な方法が隠されています。

 それは、自分の気持ちに距離をとり、見つめなおしてみること。「距離(ディスタンス)をとる」という意味で、「ディスタンシング」(distancing)と呼ばれる心理メソッドです。

「リトル本田」という具合に、自分の心を他の誰かのように見立てて、自分を外側から見直すような視点をとる。まさに、ここで言うディスタンシングの技法の一つといえます。

 ディスタンシングによって、自分の心に「距離」を置くことができて、プレッシャーやマイナス思考、くよくよと悩むネガティブな気持ちなどのスパイラルから抜け出し、より建設的に考えるきっかけができる。

 実際に、最近の心理学研究によって、ディスタンシングが、ネガティブな自分の心と向き合うのに効果的なメソッドであることがわかってきました。感情のバランスを保ったり、メンタルを強くしたり、さらには、厳しい状況で冷静な判断をしたり、人間関係を良くする効果まで確認されています。

 ここではこの分野の世界的権威である、ミシガン大学イーサン・クロス教授が勧める簡単ディスタンシングのテクニックを4つ、厳選してご紹介しましょう。どれもこれまでの研究で科学的根拠が分厚く示されてきた方法ばかりです。

  • 1、自分を呼ぶ

自分の心を外側から見る視点のきっかけをつくるのに、心の中で自分のことを呼んでみましょう。「君」や「あなた」、もしくは自分の名前を使って、他人に話しかけるように、自分のことを呼んでみてください。

  • 2、友達に声をかけるふりをする

現在の自分の状況を自分の友達が体験しているとしましょう。なんと声をかけますか? 友達にアドバイスする気持ちで、自分の心と対話してみましょう。

  • 3、心のタイムトラベルをする

1週間後、1カ月後、1年後。少し時間が経ったときのことを想像してみましょう。そのときの自分はどのように感じているか? そんな視点で自分の今の気持ちと向き合ってみましょう。未来が難しいならば、過去の自分のつもりになってもOKです。

  • 4、壁の虫になる

あなたは偶然その部屋の壁に止まっている虫です。その虫の目線から自分が悩んでいる出来事を、視覚的に思い描いてみましょう。あなたとは関係のない、その虫になったつもりで「自分」がなぜ悩んでいるのかを見つめ直してみましょう。

 自分の心の外から自分を見つめ直す。そのことでネガティブに立ち向かう。まさに心のための「幽体離脱」の厳選4メソッドをお試しください!

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星友啓

星友啓

星 友啓(ほし・ともひろ) 1977年、東京生まれ。スタンフォード・オンラインハイスクール校長。哲学博士。Education; EdTechコンサルタント。2001年、東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。02年より渡米、03年、テキサスA&M大学哲学修士修了。08年、スタンフォード大学哲学博士修了後、同大学哲学部講師として論理学で教􄽃をとりながら、スタンフォード・オンラインハイスクールスタートアッププロジェクトに参加。16年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアにむけて、教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。

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