アジア系女性の頭などを125回以上殴る加害者の防犯カメラの映像/YouTubeから

 アトランタのスパ銃撃事件を引き起こしたロバート・アーロン・ロング服役囚は、セックス依存が事件の動機だと警察に話した。実は米国では、性産業のイメージは強くアジア系女性と結びついている。ロング服役囚が襲撃したアジア系経営のマッサージ店なども過去に売春容疑による摘発を受けていた。セックス依存を助長するアジア系のマッサージ店を攻撃して、依存症を断とうとしたという。

 しかし、ロング服役囚は犯行中に人種差別が明確な発言という証拠を残していない。このため、殺人罪、国内テロ罪など23の罪状で訴追されて終身刑となったが、ヘイト犯罪とはみなされていないのだ。

ニューヨークを含む全米12都市で開かれた、アジア系女性へのヘイト犯罪に反対する集会で20代のアジア系女性アンに、今後変化は起きるのか、と聞いた。

「悲観的にみています。大きな変化は起きないと思う。ただ、米国人は、これを自分たちの問題と捉えて、私たちの存在を認めてほしい。私たちも米国人だから」

■立ち上がり語り始めた

 しかし、変化は少しずつ起きている。アジア系ヘイトに対する認知もわずかずつながら上がっている。アトランタの銃撃事件の直後、バイデン大統領は、ホワイトハウスや政府機関、軍・軍艦などに追悼を示す半旗を掲げるよう命令した。

 同時に上院では、賛成94、反対1という極めて珍しい賛成多数で「新型コロナウイルス感染症関連反ヘイトクライム法」を可決した。州政府や司法当局に対し、ヘイト犯罪の報告を義務付け、市民に対し何がヘイトに当たるのかの教育を目指す。

 同事件直後は、ニューヨークでアジア系ヘイトに反対する集会が相次いで開かれ、数百~1千人が集まった。以前から集会が多かった黒人やLGBTQのコミュニティーによるものではなく、アジア系を標的にした問題にアジア系が立ち上がるのを初めて見て、筆者は驚いた。

 コンサルティング業のミシェル・アリサ・ゴさん(40)さんが、駅のホームから突き落とされて亡くなった直後の追悼集会では、タイムズスクエアの電光掲示板に髪が長いゴさんのイラストが大きく映し出された。「通り過ぎた車内から、中国に帰れ!と叫ばれた」「地下鉄駅で体当たりされた」「性的サービスを求められた」といった体験を持つアジア系市民が、沈黙せずに語り始め、立ち上がっている。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

AERA 2022年5月16日号より抜粋

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