中島岳志(なかじま・たけし)/1975年生まれ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。著書に『自分ごとの政治学』『思いがけず利他』など

 この一連の流れによって治安維持法が制定されるわけですが、僕は安倍元首相襲撃事件からの流れは安田善次郎暗殺事件と似ていると思っています。

 旧統一教会の問題などがクローズアップされ、それを世にさらした山上徹也容疑者に対して、身をていしてよくやったみたいな感覚を持つ人も出ています。

 一方で、右派の方は国葬で安倍さんの死を英雄物語の中に組み込もうとしています。

 どちらも危ないんです。その辺を気をつけないと次の事件が起きかねません。

 治安権力は強まるんですよ。テロを未然に防止しないといけないという理由で公安を中心にSNSのチェックなどが始まり、ちょっと目立った人が逮捕されるということが起きかねません。未然の防止のためにテロ等準備罪で捕まったりすると、言論は萎縮します。

 SNSで厳しいことを与党に対してつぶやいてチェックされたら嫌だなとか、今の職場に影響を与えるかもとかまだ子どもも小さいしとか思うとやめておこうってなる。

 これが治安権力の最も強い作用です。これの一歩手前に僕たちはいると思うんです。

 だからこそ、どういう社会を僕たちで共有していけばいいのかをしっかりと見据えないといけない。その段階にきているのだと思います。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2022年8月1日号

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