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 6月4日に開幕する舞台「ようこそ、ミナト先生」で非常勤の音楽教師を演じる相葉雅紀さん。舞台は2010年の「君と見る千の夢」以来、12年ぶりだという。今回の役どころや演技への思いを語った。AERA 2022年5月30日号から。

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――12年ぶりに挑む舞台「ようこそ、ミナト先生」は、町や人生の「再生」をテーマにした物語だ。演じるのは、山あいの町で非常勤の音楽教師として働く湊孝成。人当たりがよく、町のさまざまな問題に親身になって取り組み、住民からは“ミナト先生”と慕われるが、実は大きな秘密を抱えている。

相葉雅紀(以下、相葉):すごく考えさせられる物語です。どの登場人物にもそれぞれの正義があって、見る人の立場や生活環境によって、感想がまったく変わるんじゃないかな。見た後、ちゃんとスッキリはするんですけど、「やったね、ハッピーエンドだね!」という感じではないので。

 ミナト先生自体も、僕にとってかなりの挑戦になる役だと思いました。これまでは、割と普通の人というか、日常のなかに溶け込むような人を演じることが多かったんです。でもミナト先生は、一見、人当たりはいいんですが、普通では少し経験できないような環境のなかで生きてきた人なんです。その感じをどう表現していくかが難しさであり、楽しさでもあり、突き詰めていきたい部分です。ミナト先生として、ちゃんと舞台の上で「生きる」ためには、役の上でも、相葉雅紀としてもやってこなかったような表現をしなくてはいけなくなると思う。ただ、それがうまくいったら、僕、嫌われるかもしれないです(笑)。ミナト先生の印象が変わってくるお客さんもたくさんいると思うので。

■集中して入っていく

――前作の舞台「君と見る千の夢」では、交通事故で昏睡(こんすい)状態に陥り、魂が抜け出てしまった若者をエモーショナルに演じ、高い評価を受けた。物語に入り込み、毎回へとへとになるまで号泣してしまうなど、役との境目がなくなるタイプだ。「今回もずっとしんどいと思う」と覚悟している。

相葉:演出の宮田(慶子)先生には、昔から「入りすぎるな」と言われていますし、俯瞰(ふかん)して見られる自分もいないとダメだとは思うんですけれど、僕は集中して入っていくやり方しかできないんです。12年前は魂の役だったので、共演者のほぼ誰にも認知してもらえない状態でしたし(笑)、毎日つらかったです。でも、そのつらい気分をリセットして切り替えたいとは考えなかったかな。

 一応、オフにする方法として「夜、家に帰って一杯飲む」というのがありますが、頭の隅ではずっと役のことが気になって、全然オフになりませんでした。勢いだけでやっていましたね。今回も多分、千秋楽を迎えるまでは、スッキリしない気分が続くと思います。

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