「もうすぐ夏休みね。あなたのところはどう過ごす予定?」
アメリカの夏休みは、早いところで5月下旬から始まります。それから8月頭まで、あるいは9月頭まで、たっぷり2カ月半から3カ月もの長い休暇です。子持ち家庭の間では、5月に入る頃には決まってこんな質問が飛び交います。「夏休みはどうする予定?」。わがやは最近までアメリカのアラバマ州に住んでいたのですが、休み前にこの質問をされるのが憂鬱でなりませんでした。なぜなら、休みの予定がなかったからです。
アメリカの夏休みは長い。対して宿題は少ない。よって子どもたちはサマーキャンプへ出かけ、親から離れて羽根を伸ばす――。アメリカの夏休みは、このように語られることが多いのではないでしょうか。確かに間違いではありません。アメリカには長期から短期、内容もアクティブ系からアート系、お勉強系まで、実にさまざまなサマーキャンプが存在します。牧場で牛の乳搾り体験とか、湖畔のキャビンに泊まってカヌーの練習とか、NASA のスペースセンターで宇宙飛行体験とか、もう聞いているだけでわくわく心躍り、わが子の将来がぐんぐん開けていく気がしてくる。全てのサマーキャンプに子どもを参加させたくなります。お財布さえ、許せば。
サマーキャンプは、お金がかかります。具体的には、先に上げた牧場体験のキャンプが4泊5日で250ドル(約3万5千円)、湖畔のキャンプが5泊6日で625ドル(約8万6千円)、NASAのキャンプは5泊6日で1499ドル(約20万円)也。アメリカの中でも物価が低いアラバマ州でこうだったので、いわんやニューヨーク、ベイエリアにおいてをや。わがやは結局、どこにも参加させられませんでした。
サマーキャンプの代わりに、夏季限定で催されるファーマーズマーケットや野外映画、屋外プールの情報をせっせと検索し、子どもを連れていきました。猛暑日は涼しい公立図書館で本を読み、美術館や博物館の入場料が無料になる日にはここぞとばかりに足を運びました。アメリカにだって、お金をかけずに夏を楽しむ方法はある。でも、ママ友だちにサマーキャンプに誘われても(うちはそんなお金出せないや)と断らなければいけない悲しさ、手の届かない多種多様な教育プログラムを横目に(こうして幼少期から差が開いていくんだな)と親の経済力と子の学力の相関関係を、身をもって感じる虚しさ、子どもへのそこはかとない罪悪感は、どうすることもできませんでした。