大学、企業、自治体が一体となり、研究に取り組む動きが強まっている。「産学官」が交わることで、これまで見えてこなかった視点が生まれ、新たなイノベーションにつながっていく。AERA2021年4月19日号では、北海道大学とニトリ、そして札幌市の取り組みを取材した。
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画像工学の国際学会。想像するだけでも堅めな印象のこの学会に、「お、ねだん以上。」の家具大手社員らによる、こんな論文が採録された。
「購買意欲の高い顧客の動きにはパターンがある」
今年1月、国際学会「IWAIT2021」で、家具・インテリア販売のニトリホールディングスの社員と北海道大学の教員らが研究結果を発表した。同社の白井俊之社長はこう説明する。
「今回の研究を行うにあたり、ニトリのある店舗を実験店舗としました。実験での防犯カメラの目的外使用については、事前に告知しています。映像は個人が特定できないように加工し、購買意欲の高い顧客の抽出を試みています。現在、顧客の商品への興味度合いを測る研究を行っており、いずれ実用化できれば、世界共通で使えるツールになります」
北海道にIT拠点を
同社は2019年7月、北大と札幌市と提携し、「みらいIT人財」の育成に乗り出した。今回発表した論文もその一環で、執筆した社員は現在、北大に客員研究員として出向中だ。今年3月には連携協定に北海道も加わり、4者一体となってIT技術の研究やデータサイエンス教育の推進、小中高生のIT人材育成に力を入れていくという。
「海外を見渡せば、シリコンバレーや深センなどのIT企業が生まれる地域には大学がある。優秀な学生が生まれることで、スタートアップ企業が誕生しています。日本の未来を考えたときに東京以外でもITの拠点を作ることが大切です。ニトリの起業が北海道発だったこともあり、北大とのパートナーシップが実現しました」(白井社長)
実社会にある生のデータを扱える研究の場は少ないため、大学にとっては宝の山だ。さらに、研究者と企業人とでは、同じデータを見ても解釈が異なる。これまであまり交わることのなかった両者の視点は「双方にとっても魅力的」と白井社長は言う。
「研究はすぐに成果が出るものではなく、人材育成が最も大切だと考えています。教育を通じて育ったIT人材が将来何かを創出したり、成果が出せるような人になってくれるとうれしいですね」
(編集部・福井しほ)
※AERA 2021年4月19日号より抜粋