安倍晋三元首相が奈良市で銃のようなもので撃たれた事件では、警察の警備態勢も問われている。
「警備に穴が開いていたのはテレビ映像だけでもわかる」
こう話すのは、さいたま市に本社のある危機管理コンサルティング会社「セーフティ・プロ」代表取締役で危機管理コンサルタントの佐々木保博さん(64)だ。
元埼玉県警の刑事で要人警護の経験も豊富な佐々木さんは、警備に穴が開いた要因として、「前日夜の安倍元首相のスケジュール変更」と、現場が地方だった点を挙げる。
「前日夜に安倍元首相のスケジュールが変更されたと聞いています。人員が豊富な首都圏であれば問題なく対応できますが、要員が限られた奈良県警ぐらいの規模だと、なかなか対応は厳しいと思います」
警察庁の説明では、今回の演説会場の警備は奈良県警が本部警備部参事官をトップとする態勢で対応。県警の警察官に加え、警視庁から派遣された警護員(SP)も現場にいた。安倍元首相の警護のほか、雑踏警備や交通対策など「所要の警備態勢をとっていた」という。ただ、警察官や警護員の数などについては「態勢や警備のやり方に関わる」などとして、明らかにしていない。
佐々木さんによると、元首相には生涯、警視庁のSPが身辺警護につく。人数は明かしていないが、必ず複数のSPが24時間、警備するという。ただ、地方に行く際は、警視庁のSPは1人同行し、あとは地元県警で、となる可能性は高いという。
「SPは安倍元首相を視角に入れながら前面を監視することになります。今回の彼の対応に不備はないと思います」(佐々木さん)
ただ、問題は奈良県警が担う後方を含めた警備に穴があったことだ、と佐々木さんは指摘する。
「奈良県警の態勢をテレビ映像で見る限り、通常いるはずの後方を確認する警察官は見当たりません。警備に穴が開いているのは映像だけでも分かります」
安倍元首相は演説中に背後から撃たれたとみられ、後方から人が近い距離まで達するのを許した形だ。後方の警戒をどうしていたかについて、警察庁幹部は朝日新聞の取材に対し「警備のやり方になるので、答えを控える」とした上で、一般論として「当然、後ろから何かあることも念頭においた警備態勢をとっている」と説明している。