世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩くジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、取材先でメモした記録から気になったトピックに写真を交えて紹介する。
■タイの屋台CIA
タイで続く反政府集会については日々最新の情報が報じられているが、扱われる内容は、政治的な位置づけや、政府の動向が中心になっている。もちろん、それが当然のことなのである。むしろ、こうしたデモ活動などを“別視点”から覗いてみようという輩のほうがどうかしていると言われても仕方ない。
とはいえ、私のようなフリーランスのジャーナリストは、この別視点を割と大事な取材要素にしているのだ。たとえば香港のデモの際には、トイレやゴミ捨ての様子を取材してお伝えしたことで、そこそこの反響を得ることができた。大手メディアが拾わないような「国際ニュースからはみ出した生々しい部分」を探しておくことは、意外と役に立ったりするわけだ。
今回は、タイでのデモ現場に毎回現れる屋台が気になり、どうなっているのかを調べようと思った。さっそく在住の友人に連絡したところ、予想外の返事があった。
「もうニュースになってますよ」
驚いて検索してみたところ、「タイの屋台はCIA?」とか「デモ情報つかみいち早く参上」といった見出しの記事が。その内容は、反政府集会の会場に、警察やデモの本体よりも早く屋台が登場することから、屋台の主たちはCIA(米中央情報局)並の情報力とされているというものだった。
二番煎じでもいい。むしろ自分以外も引っかかるんだと嬉しくなって、余計に気になってしまう。
私は現地の友人を通じ、あれこれ調べてみた。そして調査の結果、屋台が現場に急行できる秘密がわかった。今回のタイのデモでは、主催者たちが情報共有に通信アプリを使用しているそうで、そこに屋台の主たちがアクセスしているというのだ。
わかってみればあっけないが、私の印象としてはいかにもタイ人らしいと思った。たとえば2011年に大洪水にみまわれた際には、臨時の船着き場にも屋台村ができた。何もないところに忽然と屋台が並びだす光景は、まさにタイの風物詩と言えるだろう。それを思うと、タイの屋台はたくましく微笑ましい。