
スーパーにも並び始めた「食用菊」。見た目がきれいなだけでなく、香りや風味が豊かで、口に運ぶとしみじみと秋を感じることができます。食用菊の名産地・山形で人気農家民宿を営む女将に聞いた、おいしい菊の食べ方を紹介します。
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■鶴岡の農家民宿「知憩軒」で味わった食用菊のおいしさ
「もってのほか」という食用菊をご存じだろうか。薄紫色の長い花びらで、そのまま食卓に飾ってもいいのではないかと思うほどの優美さを持っている。その優美さゆえに、その味を知るまでは、こんなにおいしいとは想像がつかなかった。
聞けば「もってのほか」という食用菊にしてはちょっと変わった名前は、「あまりにうまいので、嫁に食べさせるのはもってのほか」「もってのほか(思った以上に)おいしい」ということが由来になっているとか(諸説あり)。納得。わが家も今までは食卓に食用菊が上がることはなかったが、「もってのほか」を知ってから、秋になって店先で見かけると「待っていました!」とばかりに買い求めるようになった。
そのおいしさを知ったのは、食用菊の名産地である山形県・鶴岡市の農家民宿「知憩軒(ちけいけん)」で食べたことがきっかけだった。食いしん坊でお酒好き、私がその味覚を信頼している料理カメラマンから、「鶴岡に行くなら、知憩軒に寄ったほうがいい」と激しく薦められ、迷わず宿泊先として決めたのだ。

知憩軒は江戸時代から続く農家で、料理上手として知られる、オーナーの長南光さん自らが郷土料理を作ってもてなす人気の民宿。古民家を改装したというあたたかみのある空間で、まるで田舎の実家に帰ってきたような、体も気持ちも弛緩させてくれる魅力がある。

農家の末娘だった長南さんは、庄内の在来野菜を使って、今も伝統的な山形の「母の味」を受け継いでいる。長南さんが作る料理は、素朴ながらも丁寧に手をかけられた逸品ばかり。柿の白和え、大根としめじの炊き合わせ、いわしの煮つけ、茶碗蒸しなど、派手さはないが滋味深く、心に染み入るすばらしい料理の数々である。そんなすばらしい料理の中でも、特に印象に残ったのが、さっと湯がいて甘酢で味つけした「もってのほか」のおひたしだった。
