出会いとは不思議である。
猫の魅力にとりつかれ、いろいろなペットショップに足を運んでいたある日、出先にペットショップがあることを知り、ふらっと立ち寄った。そこで生後半年ぐらいの猫と出会った。
初めて見る顔と柄。毛も少なく細い。どうやらシンガプーラという種類らしい。ずっと見つめていると、店員さんに声をかけられた。
「よかったら抱っこしてあげてください」
この言葉は幾度となくかけられてきた。しかし、その猫の反応は他とは違った。とてもおとなしいのだ。脱走防止のリードをつけて渡されたのだが、腕の中から逃げようともしない。
テーブルにおろすと、私の腰にぶら下がっていた鍵をちょいちょいして遊びだした。その瞬間、恋に落ちた。いつか縁があれば猫を飼いたいと思いながら過ごしてきた、2年目の冬のことだった。
しかし即決できる金額ではない。「少し考えさせてください」。そう私は言うと、店内をぶらぶらしながらどうすべきか考えていた。
すると、リードをつけられている猫が珍しいらしく、お客さんが次々にその猫の元にやってくるではないか。そして猫もうれしそうに愛嬌を振りまいている。
ちらほら「飼いたいなぁ」という声も聞こえてきた。このままではマズイ。そう頭に浮かんだ次の瞬間、大勢の客をかき分け、店員さんに「その子、飼います!」と宣言していた。
その時の私はまるで、結婚式当日に花嫁を奪還しにきた男のようだった。
「やえ」(写真、雄)と名付けたその猫を溺愛している。一緒に住んでもう1年が過ぎた。私が生涯で一番発している言葉はママでもなくパパでもなく、「やえ」である。これからもきっとその記録は塗り替えられることはないだろう。
[橋本龍弥(りょうや)さん 東京都/26歳/会社員]
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