TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。写真家の岩合光昭さんと共に過ごした秋の夜を思い出して、筆をとる。
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「ノラ・ジョーンズに行かない?」
本誌連載仲間で、長い付き合い(20年以上!)の動物写真家岩合光昭さんからLINEがあった。
「NORAH JONES JAPAN TOUR 2022」と銘打たれた彼女の日本公演は5年ぶり。
夏が過ぎ、10月を待って岩合さんと僕はチケットを握りしめ、日本武道館への緩やかな九段の坂を上って行った。
「ようやく外タレのライブが見られるようになったね」
コロナが収まり、そんなことを言いながら。まだマスクは離せないけど、坂を上るどの足取りもウキウキと軽快に思えた。
10月半ばということもあり、詰めかけた客はみんな大人で洒落て、シックな秋の装いだ。
武道館正面に「NORAH JONES」と大きな看板が掲げられ、文字の傍らには白いブラウスのノラが頬杖をついてこちらを見つめていた。
ニューヨーク生まれのノラの父はビートルズに大きな影響を与えたインドのシタール奏者ラヴィ・シャンカール(だから彼女の名は、ギータリ・ノラ・ジョーンズ・シャンカール)。3歳で両親が離婚し、彼女は母の故郷テキサスに移り住む。
母は生活のために看護師として働きはじめ、ものごころついた頃からひとりレコードを聴いた。
20歳でニューヨークに舞い戻るとそのまま住みつき大学を中退、ウェイトレスをしながら音楽を続け、ブルーノートと契約を果たした。
ノラはデビューアルバムリリースと同時に日本でプロモーションライブをしている。僕はそれを観た。20年前のことだ。
小ぶりのライブハウスで30分にも満たない演奏だったが、心のどこかに優しく触れるような歌声が印象的だった。猫が足元を通る時に毛がふわっとタッチする感じだった。