
だが、本社がある日本国内に問題は残る。年功序列、終身雇用に縛られ、欧米の優れた人材を受け入れる代わりに日本人の中間管理職をリストラすることもできない。
日本的経営はビジネスパーソンの目標も見失わせている。企業内でいかに出世するか、が目標になってしまっている。その結果、経営者や管理職たちに好感を持たれることを優先し、上層部の機嫌を損なうような正論は言えなくなる。
かつて、東芝が7年間粉飾決算をするという出来事があった。
経済産業省が東芝に、米国のウェスチングハウスを買収し、米国で原発を開発すべきだと説き、東芝は借金をして高額でウェスチングハウスを買収したのだが、当時、米国でも原発の開発はできず、やむなく粉飾決算をしたようだ。
そのとき、東芝の中堅以上の社員ならば粉飾とわかり、指摘すべきだったが、誰一人言わなかった。指摘すれば左遷されるからだ。
経営者はチャレンジ精神を失い、ビジネスパーソンたちは正論が言えない。これでは日本経済は劣化するしかない。今、管理職を務める世代は変化を嫌うだろうが、新たな価値観と入れ替わる世代交代を待っていては手遅れになる。
だから、岸田首相に思い切って年功序列や終身雇用をやめるべきだと提言した。現にそれをやめている日立製作所は例外的に好業績を上げているのである。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2022年12月30日号