田原総一朗・ジャーナリスト
田原総一朗・ジャーナリスト
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 ジャーナリストの田原総一朗さんは、年功序列や終身雇用といった日本的経営を見直すべきだと指摘する。

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 12月14日の午後、首相官邸で岸田文雄首相と面会した。

 岸田首相に具体的な経済政策の改革を提言するためである。

 この30年間、欧州の先進国や米国、さらに中国や韓国などアジアの国々もそれなりに経済成長してきたが、日本経済はまったく成長していない。かつて韓国の2倍であった日本人の平均賃金は、現在は抜かれてしまっている。

 そのうえ円安で物価高と、国民の生活は苦しくなっている。

 なぜ日本経済は劣化したのか。

 1960年代に、ソニーの創業者の一人である盛田昭夫氏は私に「ソニーは世界のどの市場にもないものを開発している。すると、付加価値がつき、経済が成長する」と口癖のように言っていた。

 だが、オリジナルの開発には、3回、4回、いやそれ以上の失敗を繰り返さざるを得ない。バブルがはじけて、大不況となった90年代以後、日本の多くの経営者が失敗を恐れて、米国などが開発した製品をより安く生産することに専念するようになった。つまり、徹底したコストカットである。

 賃金は上がらず、経営者たちは意欲を失っている。日本的経営の基本構造である年功序列、終身雇用のマイナス面が露呈したのだ。

 トヨタ、パナソニック、NTTなど、日本を代表する企業のメイン研究所の多くは、なぜか米国のシリコンバレーにある。

 数年前に、なぜメイン研究所をシリコンバレーに設置したのかを取材した。すると、どの研究所の幹部も同じ理由を披瀝(ひれき)した。

 日本ではAIなどの研究者が育っておらず、米国や欧州の研究者を迎え入れなければならない。しかし、年功序列賃金の日本では、たとえば20代の研究者に対して年間数百万円しか出せず、米国などとは報酬額に大きな開きがある。シリコンバレーであれば、年功序列など関係なく、研究者が求める賃金が出せる、というのである。

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