これまでも、あの手この手の現代語訳が試みられてきた『古事記』。しかし、そーか、この手があったかと思ったよ。小野寺優『ラノベ古事記』は、中高生を主な読者とするライトノベルの文体でアレを訳した不敵な本だ。
天武天皇の命を受け、稗田阿礼が暗誦する古い伝承を、太安万侶が書き記し、元明天皇(天智天皇の娘)に献上した──これが『古事記』の成立過程だが、なにせ元明天皇からしてコレだからね。
〈はいっ! 安万侶ストップ!! はいはいっ!!〉〈もうちょいざっくりラフな感じにお願いできないかしら? その序文、飽きちゃったの〉。朗読中の安万侶は固まった。〈え、ちょ、うそでしょ? 飽きちゃったのって? 普通にショックなんだけど。この序文、陛下に捧げるために1週間以上掛けて必死に考えてきたのに!〉
よく知られたイザナギとイザナミのくだりもこの通り。
〈「ねぇ、イザナミ。そういえばさ」/「なぁに?」/「君と僕って一緒に生まれたのに、なんか形が違うと思わない?」/「ん~。そうね」〉〈「ねぇ! もしかしたらさ、君の足りないところを僕の余計なところで埋めたら、なんか素敵なことが起きるんじゃない?」/「えっ!? ヤんのっっ?」〉
学生時代はゲームとネットサーフィン三昧だったという著者。ひょんなことから『古事記』と出会い、偉い先生方による関連書を読みあさって、たどりついた結論は〈先生方は『萌え』というものを全くわかっとらん〉。
たしかにあれは希代の奇書。下ネタ満載、エログロ満載。〈日本最古のラノベなのっ!!!〉と叫びたくなるのも理解できる。
私が好きなのは、こんな箇所ですね。〈「ネェちゃんっ!? なんっちゅー格好を……」/「軽々しく呼ばないでよっ! 私のことはお姉様って呼びなさいっ!!」/「オネエサマっ!?」/「あんた、何しに高天原まで昇って来たわけ!?」〉
以上、スサノオとアマテラスの会話。妙にハマってません? 国語にも神話が復活した現在、このくらい軽い方がむしろいいよね。
※週刊朝日 2017年9月29日号