そんな、各地の「音」の世界を、2次元の紙の世界に落とし込むことへの難しさもあったのではないか。
「思い返せば壮絶な戦いで」
と笑う。
「まずはこれまでの膨大な写真や文章の素材を発掘するところからもう大変で、もっと日々、情報を整理しておけばよかったなと思いました(笑)。そして映像で撮ったものを、自分が思い描く色で印刷物として出すことがこれほど難しいのか、という衝撃もありました」
そうすることで、印刷文化という世界へのリスペクトも生まれた。
「紙の上でその色を表現していくために、職人としての感覚で微調整していく。匠の技のすごさに感動しました」
「LISTEN.」の書籍にはQRコードが印刷されていて、これを読み込むことで、2次元の本でありながら、耳から音楽世界を体験することができる。
「子どものころに見た、『とびだすえほん』にワクワクした感覚、ああいう気持ちになっていただけたらうれしいなという思いがあって。今の時代ならではの楽しみ方で、かつての『とびだすえほん』のようにイマジネーションを広げていただければ」
そんな「LISTEN.」の世界から、イマジネーションをさらに広げることができるトークイベント、「LISTEN. 山口智子と世界を旅する」が、5月3日にホテルニューオータニ(東京)で開催される。イベントでは「LISTEN.」の一部を上映するとともに、来場者からの「聞いてみたい」「語り合いたい」という声を事前に寄せてもらい「LISTEN.」の世界の新たな魅力を広げる。
「ゴールデンウィークとはいえ、なかなか行くことができない、はるか彼方の土地の面白い音楽や映像を届けさせていただいて、それらに触れながらお話や一緒にいる空間をお客様と共有し、一緒に広げ、作り出していけたらいいなと楽しみにしています」
「LISTEN.」のプロジェクトはひとつの本としてまとまったが、その先も思いが絶えることはない。
「これまで発表してきた音や映像は、膨大な中のほんの一部です。そして本当にいいもの、本物の中の本物って、何度味わってもおいしいんですよね。それらを角度やアイデアを変えつつ面白がりなおすということもしてみたいです。楽しみ方だって、今までのようなかたちにこだわらなくたっていい。青空の下でも森の中でもいいのかもしれないし、さざなみの音と一体化するところで味わうのも新しい発見があるかもしれない。さまざまな新しい味わい方を届けたい。これからさらに進んでいくためにも、猛勉強しているところです」
さらに進化した、予測もつかない「とびだすえほん」の世界が、次の「LISTEN.」で示されるかもしれない。
(本誌・太田サトル)
※週刊朝日オンライン限定記事
「LISTEN. 山口智子と世界を旅する」
開催日時:2023年5月3日(水・祝)14:00
会場:ホテルニューオータニ(東京)
(※公演中はマスクの着用をお願いします)
公式サイト:https://www.newotani.co.jp/tokyo/gw/events/listen/