起きるとあの日が蘇る

 会場の高校生から手が挙がった。「中沢さんの言葉で特に印象に残っているものは何ですか」との問いに、神田さんが「今でも弟が燃えていく様子を夢に見て夜中に跳び起きると仰っていました」と答えると、木戸さんも独自の言い回しで言葉を紡いだ。

「原爆の恐ろしさを忘れてはいけないとよく言います。でも被爆者は、昔のことを思い出しているんじゃないんです。いつも朝起きると、あの(原爆が投下された)日のことが蘇ってきて、毎日新しい被爆者になっているというのが、実感です」

 だから、と付け加えて、「今みたいに再び戦争が起こりそうな雰囲気になるとその恐怖が強くなってくるのです」。

 被団協の活動については、

「私は被爆者ですよ。だから人間として生きるということは、被爆者としてどう生きるかということに繋がるわけです。核に反対するという当たり前の生き方をしてきただけなのです。核兵器は相対化されるものではなくて、人類にとって絶対悪ですから」

 7月23日、原水禁(原水爆禁止日本国民会議)、原水協(原水爆禁止日本協議会)、被団協の三つの団体が共同で核兵器廃絶の声明を出した。原水禁と原水協が共同で発表するのは異例のことであった。

「やっとそれができたかということです。戦争でカネ儲けしたい勢力は分裂を狙ってくるのです。手を取り支え合いながら、繋がっていく。それが大事。今後も共同していく方向へいきますよ」(木戸さん)

 講談で蘇ったゲンと進次に触発されたかのようにこの日、木戸さんは楽屋でも語り続けた。

(ジャーナリスト・木村元彦)

AERA 2025年8月25日号

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