
プロレスラー・映像作家、今成夢人。うだつのあがらない美大生が紆余曲折の末、プロレスラーに。企画、撮影、編集、肉体、感情──。ガンバレ☆プロレスのリングで、プロレスラーとして映像作家として、持ち前の「完パケ力」で、まだ誰も見たことのないものを見せてくれる。





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プロレスの聖地・後楽園ホールに大音量の入場テーマ曲が流れる。観客が手拍子で応える中、入場ゲートに現れた王者・今成夢人(いまなりゆめひと・39)は、ワクワクを抑えきれないといった笑みを浮かべて場内を見渡した。青コーナーで待ち受ける挑戦者・冨永真一郎も今成の姿を見て、「やってやろうぜ」といわんばかりに薄く微笑む。

「今成ー!」
声援を受け、リングサイドを一周してからリングに上がった今成は、コーナーポストに上ってベルトを誇示。主役の2人が揃い、ガンバレ☆プロレス12周年記念後楽園ホール大会のメイン、「スピリット・オブ・ガンバレ世界無差別級タイトルマッチ」が始まる。
再び発生した手拍子の中で両者はガッチリと握手を交わすと、じっくりとレスリングの攻防を開始した。この2人は王者と挑戦者であると同時に、15年前に制作されたドキュメンタリー作品「ガクセイプロレスラー」の監督と主役という間柄でもある。
試合に先立ち、場内に流された「煽りV」は「17年来の特殊な関係性による物語が今日、終結する」というナレーションから始まった。この煽りVも、今成が編集したもの。今成はプロレスラーでチャンピオンであるだけでなく、映像作家という顔を今も持っている。煽りVでは、卒業制作にあたって教授から「君の代弁者を見つけるべき」と指摘された今成が、学生プロレス仲間だった冨永を主役とした経緯が紹介された。2人の「特殊な関係性」はおよそプロレスのタイトルマッチには似つかわしくないスケールの小ささだが、観客は皆すでにそのストーリーを受け入れ、その終結を見届けに来ているのだ。