東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 政局が盛り上がっている、ことになっている。

 国会会期末が近づき、内閣不信任案の提出が噂されているからだ。石破首相は不信任案が提出された場合は即時の解散総選挙を宣言している。かりに衆参ダブル選となると、じつに39年ぶりだという。

 マスコミは連日政局の話で持ちきりだが、個人的には心が沸き立たない。石破内閣は人気も成果もない。

 にもかかわらず自民党は負けそうにない。自民党は支持率で他党を圧倒している。野党第1党の立民は全く存在感を示せていない。維新は兵庫県知事スキャンダルと万博批判から立ち直れていない。

 他方で昨年後半あれほど話題だった「SNS選挙」勢も失速している。台風の目になるはずだった国民民主は公認候補問題で支持者を急速に失っている。都議選の新党で旋風を巻き起こし、参院選で国政に乗り出す予定だった石丸伸二氏もいつのまにか話題にならなくなった。

 かわりにお茶の間を賑わせているのは小泉進次郎農水相である。備蓄米問題でJAと戦う氏の姿は、参院選に向け強い追い風になっている。かつて構造改革を掲げて郵政と戦った父・小泉純一郎元首相を重ねる有権者も少なくない。小泉氏は年齢こそ若いが、この点では老練でむしろ旧政治の代表だ。

 世界は激動している。ウクライナもガザも戦争は終わりそうにない。ヨーロッパでは右派が伸長している。トランプ政権下の米国は不安定さを増し、連日事件が起きている。本原稿の執筆時にはロサンゼルスで暴動まで起きている。リベラル民主主義の盟主・米国はもはや信頼できない。その影響を最も深刻に被るのは日米同盟の庇護下にある日本だ。本当なら官民の叡智を集め「国家百年の計」を議論すべき状況だ。

 にもかかわらず、マスコミは米の価格に一喜一憂し、新世代の政治家は不倫やポピュリズムに足を取られて失速する。この内向きの空気はいったいなんなのだろうかと思う。

 あえて前向きに取れば、それは日本社会の強い安定性を示しているのかもしれない。とはいえ、それも永遠に続くものではないだろう。

AERA 2025年6月23日号

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