(撮影/佐藤創紀・朝日新聞出版写真映像部)
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 あなたの“声”は、あなた自身を語っている——。今、出版業界では静かな“ことば革命”が起きている。「言語学ブーム」とも呼ばれるこの流れは、実は私たち一人ひとりの「話し方」や「声のあり方」と深く関係している。
 辞書編纂者らが今後辞書に載る可能性がある言葉を選ぶ「今年の新語」でも「言語化」が2024年の大賞に選ばれ、ビジネス書から研究者による専門書まで、毎月のように言語をテーマにした本が刊行されている。
 慶応大言語文化研究所教授の川原繁人さんも、言語学ブームの火付け役の一人だ。4月に発売された『「声」の言語学入門 私たちはいかに話し、歌うのか』(NHK出版新書)では、俳優、歌人、ラッパー、歌手、アナウンサーら「声のプロ」と対話を重ね、声が「伝わる」ことの謎に迫った。そこで川原さんに聞いてみた。「人間にとって『言語』とは何でしょう?」

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──なぜ、今の日本で「言語学ブーム」が起きているのでしょう?

 なぜでしょう。私も知りたいぐらいです(笑)。

 ただ、一つ言えるのは、インターネットが私たちの日常世界の隅々にまで浸透して、今では生成AIと対話することも日常になってきました。そんな状況下で、「人間にとって言語とは何か」という本質的な問いへの答えが知りたい人が増えているのかもしれません。

 言語はすべての人が日常的に使っていますから、身近なものですよね。でも、身近であるがゆえに気づかないこともたくさんあります。近年、専門家のあいだではMRIを使って発音の仕組みを可視化する研究が盛んですが、その動画を見て、自分の発音を客観的に理解するのも楽しいです。ただ、音声学はもっとお手頃で、自分自身でいろいろな音を発音してみて、口の中の動きを実感するだけでわかることもたくさんあります。「自分自身について」改めて知っていくプロセスはワクワクしますよ。

──新刊本には、俳優の上白石萌音さん、歌人の俵万智さん、「ゴスペラーズ」の北山陽一さんら、言葉のプロやミュージシャンとの交流から生まれた新しい発見が盛り込まれています。

 本を書くきっかけの一つになったのが、NHKで放送された上白石萌音さんとのインタビュー番組でした。当時、上白石さんは「千と千尋の神隠し」の舞台で主役の千尋を演じられていたので、千尋役のときの声と地声で同じセリフを録音してもらって、両者の違いを音響的に解析しました。

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