
全米各地で行われたデモ「ハンズ・オフ(干渉するな)」。昨年11月にドナルド・トランプ氏が大統領選で勝利した後、初となる大規模デモだった。だが、その様相は以前のデモとは異なるものだった。AERA 2025年4月21日号より。
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これまでの米国市民は、多くのデモや活動で社会を変えてきた。黒人の権利のための公民権運動、#MeTooなど女性に対するセクハラや性暴力を許さない運動、そして最近ではブラック・ライブズ・マター(BLM)運動などはすべて米国で始まった。しかし、この数カ月、社会運動は低迷していた。理由はトランプ氏とその政権による「恐怖政治」的な方針にあるのだろう。
恐怖政治のおかげで
トランプ氏が連発する大統領令の多くは混乱をもたらしているが、関税政策に至っては世界恐慌を引き起こす懸念まで生み出した。不法移民に対する強制送還についても、合法的な滞在許可を持つ移民全般の恐怖心に火をつけた。
4月5日、「ハンズ・オフ」を取材するために、ニューヨーク中心部に向かう途中では、恐怖政治に晒され続けるうちに、人々が立ち上がり始めたのだろうと思っていた。しかし、多くの若者、黒人やアジア人、ヒスパニックなど非白人も参加していた2020年のBLMのようなデモと、ハンズ・オフは違った。デモ参加者の多くは白人の高齢者が多かったのだ。
一人で参加していた非政府組織(NGO)職員の女性リズさんはこう話す。
「私の黒人の友達も『参加したい』と言っていたが、断念した。不法移民の強制送還で、非白人が誤って拘束されるケースもあり、参加することができなくなっている」
トランプ氏の恐怖政治は、デモへの参加を見送るという「自粛」「自主検閲」のような動きも、もたらした。一方で、アンチ・トランプの動きが議会で、そしてマーケット関係者の間で広がっていることからは大きな変化を感じさせる。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2025年4月21日号より抜粋