海との縁が濃い少年時代(写真:本人提供)

 この後、東京営業第一部で大企業融資の事務や企業の証券運用も経験。84年10月から2年4カ月、郵政省(現・総務省)の通信政策局政策課へ出向し、ニューメディアの普及へ参加した。財政投融資の要求や他省庁との折衝で深夜まで働き、政治家へ説明にもいき、説明資料のつくり方や事前の根回し、新しいプロジェクトの立ち上げ方など「霞が関流」の仕事の段取りが『源流』からの流れに加わった。

 2011年4月、住友信託銀行は中央三井トラスト・ホールディングスと経営統合をして、持ち株会社の三井住友トラスト・ホールディングス(現・三井住友トラストグループ)が誕生。翌年には、傘下の信託銀行3行が合併して三井住友信託銀行が発足する。この統合・合併を、住友信託銀行の取締役・常務執行役員として担当した。

 ここでは、他のメガバンクグループと違って、同じグループの三井住友フィナンシャルグループとは合流せず、独立性を維持する。2017年2月14日、持ち株会社の社長就任の内定会見でも、こう言い切った。

「自主独立の専業信託銀行であることはレーゾンデートルだ」

 レーゾンデートルは、フランス語で「存在理由」の意味だ。

 日本は高齢化がさらに進み、老後の暮らしを支える資産の運用や管理へのニーズは、ますます高まる。大切な資産を安心して託せる相手がいるかどうか、信託の出番だ。

 2021年4月、会長に就任した。土地信託を担当したときに「信託という手法を使えば、いろいろなことができるな」と思った。信頼はいったん崩れると取り戻すのに長い年月がかかる、との恐れも知った。

 信頼に応えるには、業務に関わる一人一人が信託のプロでなければいけない。『源流』からの流れは、高齢化社会を支えていく可能性を帯びて前へ進む。(ジャーナリスト・街風隆雄)

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