AERA 2025年3月10日号より

経団連が本気で動く

 反対派は、夫婦が別の姓を名乗ると「家族の一体感が損なわれる」といい、別姓を選択する夫婦が出現することが社会の不安定化につながると問題視している。経済成長をめざして「女性の活躍推進」を掲げた安倍政権のもとで、政府は、運転免許証やパスポートに旧姓を併記しやすくするといった、旧姓の通称使用拡大を進めた。

 膠着状態だった自民党をいま、揺さぶっている要因は「少数与党への転落」に加えて、ビジネス界から吹き付ける風がある。昨年6月、財界総本山である経団連が選択的夫婦別姓の導入を求める提言を公表し、法改正をめざして本気で動き出した。

 経団連もかつては、「旧姓使用で足りる」との立場だった。夫婦同姓を定めた現行制度を合憲とした15年の最高裁判決の際、当時の榊原定征会長は「(現行制度で)会社としての不自由、個人としての不自由さは全くないのでは」と述べていた。そんな経団連を動かしたのは、ビジネス界で確実に存在感を増してきた女性たちのパワーだ。

ビジネス上のリスク

 女性活躍推進法が成立した15年、経団連は会員企業の女性役員のネットワークを創設した。当初は数十人からスタートし、今では300人弱のメンバーがいる。点在していた女性役員同士がつながり、海外出張の際にパスポートの姓と一致せずホテルに宿泊できないといった旧姓使用の弊害が共有されるようになった。ネットワークを通じて男性経営者と女性役員らの交流の機会も増え、夫婦同姓の強制は社会課題でありビジネス上のリスクだと理解が広がった。

「共感し、自分の使命としてやり遂げるという男性経営者もでてきた」(魚谷雅彦・経団連ダイバーシティ推進委員会委員長)

 経団連が公表した女性役員を対象にしたアンケートでは、回答した139人のうち約9割が、旧姓を通称(ビジネスネーム)として使えても「何かしら不便さ・不都合、不利益が生じると思う」と回答。実際に旧姓を通称使用している人に、具体的に困った経験を選択肢から選んでもらったところ、「海外渡航時にホテルが通称で予約されていたため、パスポートの姓名と異なるとしてトラブルになった」「通称で銀行口座やクレジットカードを作ることができなかった」がそれぞれ26人で最も多かった。契約や不動産登記ができなかったという人も多かった。

 自民党の応援団でもある経団連が賛成に転じ、特にグローバル化するビジネスの現場で、旧姓の通称使用ではもはや通用しないと突きつけた意味は大きい。(朝日新聞記者・岡林佐和)

AERA 2025年3月10日号より抜粋

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