政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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トランプ氏が再び大統領に返り咲くことで、米国の地政学的な焦点が東アジア、特に中国に集中する可能性があります。ロシアとウクライナの戦争を停戦に持ち込み、中東の紛争も凍結させて米国の戦略的資源を対中国シフトに集約させる。この戦略的資源の選択と集中が、トランプ新政権の目玉になる可能性が高そうです。
トランプ新政権は、通商・貿易の面で、高関税で中国を抑え込んでいくために「台湾カード」をディールに使い、安全保障上の危機がエスカレートしていくシナリオも考えられます。トランプ新政権は孤立主義に傾きそうですが、それはあくまでもヨーロッパ=旧世界への関与が少なくなることを意味するのであり、インド太平洋地域には積極的関与に打って出る可能性が高そうです。
同時に日韓という米国の同盟国に対しても、バイデン政権のような3カ国の結束と協力の強化を図るよりも、個別的なディールによって貿易と安全保障の面で米国に有利な条件を押し付けてくる可能性がありそうです。
さらに由々しいのは、北朝鮮との交渉が再開し、確実な検証手続きによる不可逆的な「非核化」は非現実的ということで北朝鮮を事実上、「核保有国」と認めた上での「核軍縮」の2国間ディールが成立するシナリオです。そうなった場合、韓国はどう対応するでしょうか。また、日本は核の脅威に耐えられるでしょうか。
トランプ大統領の登場で予想されるシナリオは、最悪の想定であり、実際にはさまざまなグラデーションが想定されるでしょうが、かなり蓋然性が高そうです。それでは、どうすべきか。答えは、2国間のディールを極力避け、例えば日米間であれば、韓国を加えた3カ国間のディールに持ち込む戦略に転換することです。そのためにはアジェンダの設定とアジェンダごとに組むべき相手を変えてゆく複合的なガバナンスが外交当事者に求められます。議会での多党化に対応して、問題設定ごとに連立を組み替えてゆく政党政治の複合的なガバナンスを国際関係に投射してみれば分かるはずです。もはや、運命共同体的な日米友好などは、片思いの幻想であることを悟るべきです。
※AERA 2024年11月25日号