真似されるのはいい
「編集部で会議をする際、担当者はしっかり読んでいるので内容がわかるが、他の人はよく知りません。読んでいない人の意見を聞き、タイトルを考えることは大事です」と阿部さん。流行にはそれなりの理由があるが、乗りすぎるのもよくないし、真似はしたくない。真似されるのはいいことで、真似される側でありたいと強く語る。いくら中身がよくてもタイトルがよくないとやっぱり売りにくい、よってタイトルはとても大切だとも。
阿部さんが印象に残っているのは『「痴呆老人」は何を見ているか』(大井玄、08年)という書だ。当時、「痴呆」という言葉から「認知症」という呼称にすべきという流れがあったが、そもそも「認知症」という言い方以前に認知症とは何かがよく知られていない。言葉を変えてしまうと現実が見えなくなってしまうと危惧した。ならばあえて「痴呆」という言葉を使うことにした。
「著者もすごく納得されて、自信を持ってつけました」
阿部さんは、編集者は著者の考えていることを読者に伝える触媒みたいなものだという。その触媒がうまく機能すればいい本ができるし、いいタイトルが生まれる。
「毎回、これがベストだと考えていますが、必ずしもうまくいくものではないですね。まだまだですよ」。そう阿部さんは締めくくった。(ライター・鮎川哲也)
※AERA 2024年11月11日号より抜粋