ともあれ、世に出させていただいた中では、二巻の『千両の首』が自己最長記録。悪役をどうするかで悩んだ。
悩んだ甲斐があり、三巻の『形見の剣』も、いい話になった。
そして今回、最終回という気持ちで四巻にとりかかった。第一章の「女の館」を書いている時は、まだ気持ちに変化は起きていなかった。
第二章の「望郷」も、ああ、あと二章で終わりだな、という気持ちだった。
第三章の「覗き絵師」。これに出てくる万五郎という男がまたいい味を出していて、玉緒と真十郎を引き立てる。このあたりから、二人が筆者の手を離れた気がする。
第四章の「三百両の子種」は、もう完全に時代劇を見ている感覚でキーボードをたたいていた。
こんな具合で、とても面白かった。玉緒は凄腕のエージェントだ。あんなのが近くにいたら、なんでもやっちゃうな、という気分になって、はっとした。自己最短日数で一冊書き終えていたからだ。
しばらくぼうっとした。玉緒の残像が、なかなか頭から消えてくれなかったからだ。
主人公の真十郎は大名家の出自で、今でいうごりごりのエリート。だけども、一巻から三巻のあいだにいろいろあって、四巻では完全に無職。口入屋を営む玉緒の世話になりたくなくて、用心棒ではなく、留守番屋なるものを起業して、食べるのもやっとの浪人暮らしをしていた。楽ではない。けれど、自由で気楽。シビアな世界で生きていた真十郎にとって、やめられない暮らしだといえる。これを許さないのが、凄腕のエージェントである玉緒だ。出自もよくて、剣の腕も立つ真十郎は金になる。とばかりに、うまーく転がす玉緒を見ていると、楽しくてしょうがない。原稿を渡してしばらくすると、「いやぁ、玉緒がいいですね。好きです」と、またも編集Kさんが言ってきた。玉緒の才能を見抜いていたのは、編集Kさんではなかっただろうか。
編集Kさんも人を乗せる天才だが、まさか自分が考えた玉緒にまんまと乗せられるとは思わなかった。
「ちょいと裕一の旦那、寝ている暇はございませんよ」
五巻も書かせてください。気付けば、そう言っていた。