ベテラン組で久しぶりに決勝に返り咲いたのがルシファー吉岡である。6回目の決勝進出を果たした彼は、これまでは下ネタのコントを得意としていたのだが、今回はあえてそれを封印した。下ネタの要素を取り除いたことで、彼の芸の本来の魅力が受け手にダイレクトに伝わるようになり、見事に高得点を獲得した。ファイナルステージで敗れて優勝は逃したものの、決勝常連組の意地を見せた。

 同じくファイナルステージに残っていたのが吉住である。彼女は『女芸人No.1決定戦 THE W』の王者でもあり、女性ピン芸人としていま最も勢いに乗っている。その着眼点の鋭さと演技のキレは唯一無二のものだ。ファイナルステージでも優勝まであと一歩というところまで行っていた。

 そんな強豪たちを抑えて優勝を果たしたのが、漫談家の街裏ぴんくである。嘘か本当かわからないファンタジー漫談を得意としている。彼の漫談は嘘を嘘として楽しめる大人のための高度な話芸であり、もともと業界内では高く評価されていた。しかし、『R-1』ではずっと勝ち上がれずにいた。

制限時間4分間は好都合

 ネタの制限時間が4分に伸びたのは、彼にとっては好都合だったに違いない。自分の話にじわじわと聞き手を引き込んでいくタイプなので、ネタ時間が短いと本来の面白さが伝わりにくくなってしまうからだ。街裏ぴんくは決勝で披露した2本の漫談ネタで爆笑を起こし、頂点に上り詰めた。

 ピン芸というのは「1人でやる芸」のことであり、芸の中身や種類に制限はない。今回の『R-1』の決勝だけを見ても、やっているネタの形式はそれぞれ違っている。多様な個性がそのまま認められ、評価されるところにこの大会の面白さがある。

『R-1グランプリ』は、ピン芸には無限の可能性があるということを教えてくれる。こういう大会が存在することが、お笑い界にとっては1つの希望である。『R-1』は何かにつけて批判されがちではあるが、何とか今後も続いていってほしいものだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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