1月2日に羽田空港で発生した日本航空と海上保安庁の航空機同士の衝突事故を受け、国土交通省は有識者らによる事故対策検討委員会を開き、6月24日、中間取りまとめを示した。それに対し、7月10日、現役パイロットや管制官ら約1万人が所属する日本最大の航空業界団体「航空安全推進連絡会議(航空安全会議)」が、「実効的な対策とならない可能性が高い」とする「見解」を公表した。
【見解はこちら】再発防止に現場は「とんちんかんな内容」【解説や事故写真】
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「とんちんかん」なまとめ
「取りまとめにある対策では事故は防げません。中身がスカスカで話にならない。実効性のない空論に、『またか』と思いました」
航空安全会議の「見解」を取りまとめた牛草祐二事務局次長は、厳しい表情でこう語った。
「現場の意見を吸い上げずに議論するから、こんなとんちんかんなまとめが出てくる。事故直後に国土交通省航空局が出した緊急対策もそうでした」
牛草さんは日々ボーイング787型機を操縦する現役パイロットで、日本では数少ない滑走路誤進入対策の専門家だ。諸外国で対策の取り組みを学び、航空局にも伝えてきた。しかし、航空局はいまだに「現場の声を吸い上げる仕組みが希薄」という。
牛草さんが「またか」といった背景には、事故を受け、1月9日に出された緊急対策への疑念がある。
管制官がパイロットに離陸の順番を伝える「ナンバーワン、ナンバーツー」といった情報伝達を、航空局の指示で取りやめることになったのだ。
現役パイロットは誰でも知っている
1月2日の事故では、海保機が管制官の指示とは異なる動きをして滑走路に誤進入、着陸してきた日航機と衝突したことが明らかになっている。
事故が起こる前、管制官は海保機に「ナンバーワン。C5上の滑走路停止位置まで地上走行してください」と指示し、海保機は「滑走路停止位置C5に向かいます。ナンバーワン。ありがとう」と応じていた。
事故後、複数の「専門家」は「管制官が被災地支援に向かう海保機の離陸を優先させたため、『ナンバーワン』という言葉を使ったかもしれない」とし、それが事故に結びついた可能性を指摘した。
しかし、これは牛草さんら現場の人間には「極めて不自然な推察」に思えたという。
「あのとき、誘導路には出発を待つデルタ航空の旅客機がいた。大型のジェット機が先に離陸すると後方に乱気流が発生するため、その後3分間は離陸ができない。海保機のような小型機に『ナンバーワン』を与えて優先的に離陸させることは、日常的に行われているごく普通のことです。現役のパイロットであれば誰でも知っていることです」