「越境者のほとんどは自分の出身のセネガルから来た。市のシェルターでの滞在期間が切れて出されて、寒いのに路上や地下鉄内で寝ているので、見過ごせなかった。家具店だから2段ベッドも簡易ベッドも手に入るから提供した。トイレは店内と地下室に二つある」

 サー氏は、危険な環境に移民を住まわせたとして、最大で5万ドルの罰金を科される可能性にもふれた。

 このインタビューの間、次々に近所の人が家具店前に来て、集まったメディアに不満をぶちまけようとした。市に通報したという黒人女性は、金切り声でこう訴えた。

「移民らは、私たちの家族の命を奪っている。ベネズエラ人は、地下鉄で殺傷事件も起こすし、近所で盗みを働いている! 私だって移民だけど、犯罪人じゃないよ!」

 と、市内で起きている移民がらみの事件ニュースを混同している様子だ。しかし、労働許可がまだなく、行き場のない移民が近所の家具店内に78人もいたというニュースはショッキングだ。

 移民の激増には、多様性や寛容を重んじるリベラル派の市民や若い人も急速に不安を募らせている。

 ニューヨーク市は、越境者や亡命希望者からなる移民を拒否せず守ることを政策とする「サンクチュアリ(聖域)」都市だ。このため移民が流入し、米国とメキシコの国境越境者を含め約6万6千人もの移民を市内のシェルターに住まわせている(2月中旬現在)。

 新型コロナウイルスの感染拡大で閉館したホテルなどに移民の宿泊料を支払い、単身で30日間、家族で60日間滞在させている。その費用は市の財政を圧迫し、公立校の給食メニューを減らし、図書館の週末閉館を実施するなど、市民生活にダメージが広がっている。エリック・アダムス市長は、バイデン政権に対し何度も移民を滞在させるための財政支援を求めたが、冷たいあしらいを受けた。シェルターでの滞在期間が過ぎた移民は、シェルターの再申請をしている間、路上や地下鉄内で寝泊まりしている。市民の不満がバイデン氏に向かうのも当然だ。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

AERA 2024年3月18日号より抜粋

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