「親ガチャ」「教育格差」問題の背景には、「大学入試の結果によってほぼ決まる最終学歴で社会に出たときの地位や収入が違うのは当然、と思い込まされている現実がある」と、教育ジャーナリスト・おおたとしまささんは指摘する。『学校に染まるな! バカとルールの無限増殖』(ちくまプリマー新書)を上梓したおおたさんが、教育格差問題を解決するアプローチを提案する。

MENU 学業成績の個人差の50%は遺伝で説明可能 なぜ学力で競わされなきゃいけないのか? 学歴は平等な社会の通行手形として登場した 教育と立身出世競争の癒着を引き剝がせ

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学業成績の個人差の50%は遺伝で説明可能

「親ガチャ」はある。子ども本人にはどうにもできない「生まれ」によって、学力や学歴にどうしても差ができてしまう傾向があるということだ。「生まれ」とは主に、親の社会経済的地位(学歴や職業や収入などを加味した指標)を意味する。

 親の社会経済的地位が子どもの教育成果に与える影響については、塾や習い事に行ける機会や、私立の“いい学校“に行かせてもらえる機会の差によるところが大きいのではないかと思われるかもしれない。それならば、経済的な支援をすれば解決するはず。が、実際はそんなに単純な話ではない。

 近年急速に進歩を遂げている行動遺伝学の知見によれば、親の社会経済的地位に由来するように見える影響のうち半分くらいが、実は遺伝的要因の反映だとわかっている。つまり、教育格差ができる構造として、遺伝的要因が無視できない。

 行動遺伝学者の安藤寿康さんによれば、学業成績の個人差の要因はざっくり、遺伝が五〇パーセント、家庭環境(親の社会経済的地位など)が三〇パーセント、その他(先生との出会いのような偶然や本人が変えられる要因)が二〇パーセント。

 社会経済的地位以上に遺伝的要因が親ガチャを左右しているらしい。社会経済的地位が低い家庭で育ったひとでも、学業において有利な遺伝的特性があるひとは言語能力の獲得が早く、上昇志向も強く、経済的に豊かになる傾向があるそうだ。

 学業成績だけではない。個人の得意・不得意のかなりの部分が遺伝で説明できてしまうようなのだ。

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おおたとしまさ
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