この子が楽しそうならいい

 でも、そんなネガティブな感情を変えてくれたのも長女でした。我が家では夫も含め、長女の障害をギャグのよう笑い飛ばすことがあります。たとえば、私が長女に話しかけた時にきょとんとした顔をすると、「あら~また“この人何言ってるかさっぱりわかんないわ~”って思ってるでしょ(笑)」と、私ひとりで会話を完結します。すると長女は、言葉の意味は通じなくても私が笑っているので同じように笑顔を見せてくれます。そんな長女の笑顔に「この子が楽しそうならそれで良い」と思えるようになりました。

 長女が暮らす世界はとても自由です。誰かに気を遣うことも、もめることもなく、楽しければ笑顔になり、嫌な時は不快な声を出します。常に自然体で大好きな音楽に囲まれて生活をしている長女は決してかわいそうではないと思うのです。

 数日前、デイサービスの連絡帳にこんなことが書いてありました。

〈散歩に行きましたが、今日もナビゲーターゆうちゃんで、道案内はお任せしています。「行きたいところがあるの?」と聞くとうなずいていましたが、見たい景色があるのか、思い出の場所があるのか気になります〉

 もちろん、長女は道案内をすることも言葉を理解して「うん」と言うこともできません。でも長女と接していると、言葉を使わなくても表情や声で十分通じることがあります。その答えは彼女の「笑顔」です。みんなに愛されて楽しそうに生活している長女を見ていると、幸せの価値観はひとつではないのだと気づかされます。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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