NPO法人「リカバリー・サポート・センター」は、毎年3~5日、被害者に無料検診を続けてきた。写真はセルフケア講習会の様子(写真:RSC提供)

「人類の歴史上経験のない化学テロによる健康被害に対し、国、医療、メディアは鈍感過ぎた。簡単に『異常なし』という医療の姿勢はとくに問題だ」。若倉氏は昨年の講演会で、改めて訴えた。

 事故の対応に当たった医者や弁護士、ジャーナリストらは、取り急ぎ、事故の翌年から公共施設を借りて検診を始めた。当初66人だった検診者は、5年で300人を超えた。NPOの設立総会にこぎつけたのが2001年。翌年、認証された。

鈍かった国の動き

 そのRSCが今月18、19日の無料検診を最後に、活動を終える。「登録する被害者が100人を切ったのをめどに、スタッフが高齢化したこともあって、休止を決めた」と理事長の木村晋介弁護士は言う。

 犯罪被害者に対する国家支援の立ち上がりは、日本では欧米に比べかなり遅く、通り魔殺人等の被害軽減に支給される「犯罪被害者給付制度」(1981年施行)があるだけだった。

 地下鉄サリン事件などの無差別殺傷事件を契機に、被害者に対する支援を求める社会的な機運が急速に高まった。2001年に給付制度を拡充した「改正犯罪被害者等給付金支給法」が成立。給付金と同時に待ったなしとされたのが、PTSDをはじめ被害者への精神的なケアだ。

 山城洋子さん(現事務局長)は、設立総会の少し前から、RSCの運営を手伝い始めたが、何より「被害者同士が互いに話をできる場づくり」を急ぐ必要があると痛感していた。

 10年目事業として「メモリアル・ウォーキング・ケア」を05年に実現。駅に近づけなかった被害者が少なからず、地下鉄駅まで下りて、献花をできるようになった。「お互いの会話が生まれ、交流が始まるまではなお、積み重ねが必要だった」と山城さんは言う。国家の混乱を狙った犯罪だったが、被害者支援にあたる国の動きは鈍かった。代わって、民間団体が動いた。

 厚労相の経験がある立憲民主党の長妻昭政調会長は「現場を一番よく知る支援団体の皆さんが、意見やデータをぶつけて、国会議員や政府を突き上げた。自分たちにも反省がある。そうしたご指摘で支援団体を支援する法整備にもつながった」。RSCのインタビューに答えた。

 木村理事長は二十余年の経験で、「被害者に寄り添う対応ができるのは民間」と感じていた。

「オウム真理教犯罪被害者等給付金」の給付が08年に始まった。警察庁が、申請した被害者に対して「本当に被害を受けたのか、犯人調べをするかのように」(木村理事長)当時の状況を事情聴取した。申請者らは、一斉にRSCのスタッフに警察庁の「乱暴な調べ」を訴えた。

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