医師らは、これまでの検診のデータも踏まえ、警察庁らに説明。警察側も、事件発生以来の検診実績を認め、RSCに給付金裁定を依頼した。そのうえで77人の被害者が集団申請した。
「治療が無料となるサリン手帳(健康管理手帳)が発行された04年も、政府は広報が十分でなく、当初は3人しか申請がなかった。私たちが被害者に伝え、64人が集団申請した」
手探りで組み立ててきた「被害者支援モデル」は、JR福知山線脱線事故(05年、乗客106人が死亡、562人が負傷)にも共有された。両団体の会合では、RSCから毎年の集団検診の経験について「カルテなどの被害の証拠散逸を防いでいる」(山城さん)と伝えられた。
「終わっていない」
地下鉄サリン事件の「14人目」の被害者が亡くなったのは、3年前のことだ。重い後遺症と闘ってきた浅川幸子さん(享年56)が20年3月に、サリン中毒による低酸素脳症で亡くなった。
「サリン事件は終わっていない」。RSCの下村健一理事は痛感する。30年近く経っても、検診には時々初診の被害者が訪れた。
RSCは昨年、「事件後に生まれた若者」たち二十余人と5人の被害者を招き、「事件といま」をリモートで語り合ってもらった。
「(地下鉄の)ホームにできた(サリンの)水たまりを、ビチャビチャ歩いた」「胸に鉛が入ったように、急に呼吸ができなくなった」。語り部たちの言葉に、「自分もいつでも被害者に、との思いに背中がひんやりした」(20歳)、「どんな言葉で語り部さんたちは傷ついてしまうのか」。さまざまな語りの中で、「風化にあらがう語り継ぎ」(下村理事)を将来世代に託した。
(ジャーナリスト・菅沼栄一郎)
※AERA 2023年11月27日号